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空の広い街
いまや世界最大級の空港となったアジアの玄関口、タイはバンコク、スワンナプヤーム空港からさらに4時間、ラオスのビエンチャンへと飛行機は高度を下げていく。次世代の経済大国を目指し目まぐるしい発展遂げる東南アジア諸国において、マイペースで緩やかに時を重ねているのがここラオスである。時刻はもう翌日へ差し掛かろうとする時間だが、大国首都のように街や幹線道の灯りに煌々と包まれるといった様相にはまだまだ程遠いようだ。 空港併設の銀行で両替をすると、どう数えてみても数千円多い。そして僕は勿論その指摘をしない。相変わらずの杜撰な金銭感覚と管理体質、日本ではありえないこの状況に気持ちがはやる。銀行の両替、空港を出て寄ってくるタクシードライバー、ねっとりと絡みつくアジアの風、適度な昂揚感と緊張感を持って始まるアジアの旅はいつも僕の気持ちを新鮮にさせる。 ここビエンチャンは首都ではあるものの高層ビルなんてものとはとんと無縁で、たまに現れる上等な建物といえば日本自動車メーカーの展示場くらいなものだ。だから、心なしか空が広い。ドライバーに中心地の宿名を告げシートに背中をうずめる。さすがに半日以上かけるフライトは疲れる。ふと外を見るとまだまだ街は眠る気配がない。もう夜中だというのにビエンチャンの中心地はひどい人通りの多さで多くの若者でごった返している。 「今日はお祭りなんだ。お前はいい時期に来た」そう告げながら、ドライバーは僕の荷物を宿まで運んでくれた。とても親切な男だ。これは感覚的なものだが、その国、街の度量はタクシードライバーである程度図れる……部分がある。もちろん一面的な見方ではあるが、事実ドライバーと揉めた街では、たいてい他のことでも痛い目に合う。逆にドライバーが親切だった街は、良い思い出として心に刻まれることが多いのだ。 ![]() ↑ラオ版スプライト。読めない。 宿替え 朝、最悪な気分で起床する。理由はただひとつ、南京虫が出たからである。旅行者にとってゴキブリと同等に避けたい虫が南京虫である。彼奴らは夜な夜なベッドに寝ている人間の血を吸う吸血虫だ。しかも、普段はまるで目立たず踏みつけても引導を渡せないほどに薄っぺらいのだが、血を吸うと丸く膨れるため、間抜けなことに朝起きるとシーツに血まみれで潰れた彼らの姿を見つけたりもする(その血はもちろん僕のものなのだが)。この虫が寝床に登場すると本当に気が萎えるのだ。僕は早々に宿を変えることを決めた。 よく晴れた朝、異国での早朝散歩は実に気持ちいい。特にビエンチャンのように首都でも穏やかな街ならばなおさらだ。散歩がてら宿を探すが、さすがにアジア途上国の首都、宿探しに困ることは全くなさそうな雰囲気である。 ![]() ↑中心地でもこの雰囲気だ。 メインストリートから少し奥まったところにある渋い木造りのホテルが気になったので、暇そうにしていた従業員に泊まることができるか聞いてみたが、日本語も英語も通じずオーナーに電話をかけてくれた。運よくひと部屋空いていたためその場で決定。彼は言葉が通じないことを申し訳なさそうに身振り手振りでいろいろと教えてくれた。言葉が通じないのはむしろ僕側の問題なので気にしないでと言いたいが、その気持ちが今はとても嬉しい。とにかく荷物を移動させてこよう。 ![]() ↑綺麗な宿である。 |