- j k l -

JAGUAR「A Vision」
前年のUKスパーク年間を受けた98年、期待の新人として話題を集めたロンドンはJAGUARのデビュー作である。サウンドは骨太ギターロック、得意なテンポはミドルテンポ、ボーカルも中低音に強くダルイ感じの声がかっこよい。が、気になる。作品としておもしろみがない。悪くはない、程度の感想になってしまう。優秀な新人の作品には往々にしてこのような作品がある。実力はありメロディも表現力もあるのに作品として失敗してしまう。それは構成力であったり、曲の緩急だったりとトータル的なプロデュース感覚が必要とされるんだけど、これがなかなか難しい。いい曲が書けるイコールいいアルバムが作れる、わけではないんだな。まぁそれでもオアシスみたいに楽曲が圧倒的だと問題なかったりするんだけど、そこまでの説得力に欠ける。楽曲にそぐわないような、終わりだとか空っぽだとかいう歌詞がやたら多く、明日への展望を語ったりとその世界観は非常に内省的で暗いものだったりするし。うーん・・・。まぁそれでも曲単位に目を向けると本当にかっこいい曲は何曲もあり、@「Up And Down」やC「Coming Alive」あたりはやばいよホント。


JET「Get Born」
オーストラリア発、いまや全世界で馬鹿売れのJETのデビュー作。こういう大王道ロックンロールがイギリスやアメリカではなくオーストラリアという地から飛び出してきたのには驚き。泣く子も踊りだす悶絶リフのA「Are You Gonna Be My Girl」収録。とにかくロックンロールとはこれだぜ!と言わんばかりのモロ直球系で、ガレージ流行扱いされる風潮がある中、その直球ぶりの圧倒的な説得力でそれを跳ね除けた感はある。狭いステージから広い開けたステージまで対応できる楽曲の爽快さと、ボーカルが3人いるスタイルが武器だろう。C「Lool What You've Done」やE「Move On」を代表に、アルバムの半分がバラードなのだが、他のバンドと一線を画したのはバンドの印象と矛盾するようだけど、やっぱりバラードへの執着、なのだろう。曲を聞かせることの出来るバンドはやはり強いということだ。そしてこのバンドはドラマーが一番かっこいい。オレがドラムをやっているせいか、見た目も演奏も揃って高評価を出せるドラマーはなかなかいないんだけど、このバンドのドラマー、クリス・セスターは凄く好きだな。AのPVのクリスとかむちゃくちゃかっこよい。


THE JESUS AND MARY CHAIN「Psycho Candy」
80年代前半、リード兄弟により結成されたジザメリ、20年前の作品とはとても思えない85年発表の1st。プライマルスクリームのボビーがドラマーとして在籍していた時期の唯一の作品でもある。まぁドラムは別にジザメリにとってはあまり重要ではない。ギターのためのお膳立てだ、悪く言えば。さて、ジザメリである。現在数多のフォロワーがいるマイブラやピクシーズであるが、その彼らに強く影響を与えたバンドである。特筆すべきはサイケなメロディの裏で鳴り響く鬼のディストーションギター、これに尽きる。A「The Living End」、B「Taste The Door」、E「In A Hole」、I「Inside Me」あたりのノイズは体にザクザク突き刺さってきそうなほど破壊的である。しかしメロディの優雅さも対照的に目立つものであり、60年代アメリカの音楽に影響を受けていそうな、D「Cut Dead」、J「Sowing Seeds」のポップネスさには思わず耳を傾けてしまう。破壊的であり優雅的、どちらかを持っているバンドというのはそのバンドが良い悪いに関わらず数多くいるものである。しかしこの両極端にありがちなフレーズを併せ持っていた彼らだからこそ今現在における支持と評価を得ていることは言うまでもない。


KEANE「Hopes And Fears」
毎年毎年年始には各音楽誌が「最強の新人!!」云々並べ立てるもので、おまえらの中で最強の新人ってのは一体何組いるんだと突っ込みたくなるもんだが、彼らはその中でもトップクラスの部類の成功を収めたといえるだろう。初登場全英1位という快挙を成し遂げた叙情派キーンのデビュー作。叙情派といっても、クリス・マーティンが持つ張り詰めた「陰」な美しさとは対極にある「陽」な楽曲、かといってフラン・ヒーリーが持つ自己を見つめるような優しい暖かさともまた違う、明るさと希望を素直に外に押し出した躍動感溢れる作品。ギターもベースもいないという特異なバンドスタイルを持ち、特におもしろいアレンジをするわけでもなく淡々と刻む鍵盤とドラムが実にうまく作用していて、歌の純粋な部分を見事に引き出しているんだな。@「Somewhere Only We Know」は大名曲、必聴。一世代前のアイドルが太ってしまったようなダサいボーカルであるが、歌唱力と表現力はすばらしく高く、まぁライブではなくCDを聴くバンドかな。キーボードはライブでの弾き方凄くかっこいいけどね。


THE KILLS「Keep On Your Mean Side」
ヴィヴィのボーカル超かっこいい!女ボーカルに"かっこいい"なんて形容詞を当てるなんてあんま無いだけにうれしい人たちが登場してくれました。ボビー・ギレスピー大絶賛でプライマルズの前座にも抜擢されたキルズ1st。アメリカ南部の土臭いブルージーさと、70年代パンクにおける突発さを併せ持つようなその単純なようで深い楽曲上で、ホテルの太く凶暴的なギターリフが聴き手をぐいぐいぐいぐい引き込んでいく。そして上記したが何と言っても時に絶叫し、時に妖艶に迫るヴィヴィのボーカルスタイルが、かっこいい女とはこういうもんだぜという気にさせる。アヴァンギャルドな女ボーカルスタイルというとNYのYEAH YEAH YEAHSあたりがいて、実際引き合いに出されたりしているけど中身は全然違うしょ。彼らよりもっと地に根をはったような音楽観を持っていて、あくまで音楽性は過去の掘り起こしと再構成に徹している。できそうでなかなかできないことなんだけど、自分たちはどうすると一番かっこよくなるか、それをこの人たちはしっかり理解している。キルズを知らない人はとりあえずシングル曲にもなってるA「Cat Claw」やD「Fried My Little Brains」を聴いて、そのダークな世界でぶっ飛んで欲しい。


KINGS OF LEON「Youth And Young Manhood」
はじめシングルを視聴した時に、あぁまたこの手のガレージ系か、と思ってたいして聞かずに流してしまったんです。だってこの頃ってホントにガレージを出せばいいみたいな風潮でさ、ガレージが好きだからこそ、もうやめて的な感じだったんです。で、後日彼らの写真を見て衝撃を受けた。平均年齢20歳というその姿は、1960年代のアメリカからタイムスリップしてきた中年のおっさんとしか思えない出で立ちであり、それを見た瞬間視聴機に速攻、なるほど!と唸りました。さて、兄弟+従兄弟のこのデビュー作、まだ若いんだから速い曲をやるのさ、と本人達が公言している通り、意外にもエモーショナルな仕上がりとなっている。カレブの泥臭い声も、おっさん声が大好きなオレとしてはバッチリだし、その走るリズムにバッキンバッキンの駄目ギターもメロディの良さと見た目でカバーできているから良し。とにかく@「Red Morning Light」のボーカルの入りのところは実にクールで、なんとも笑いがこみ上げてしまう。全曲通して良曲ぞろいなんだけど、まぁ音への感覚をもっと磨かないとダメだと思います。そのへんは次作への期待とするかな。


KULA SHAKER「K」
うあー、かっこよすぎ!!ギターのカッティング、ワウの強烈な高揚感、グルーヴ感抜群のリズム隊!クリスピアン・ミルズの見た目とは違って太い声も良いし、一度はまると抜け出せない中毒性あり。新人バンドのデビュー作としては貫禄さえ漂う文句のつけようのない内容。ジャケからもわかるとおり、C「Govinda」で特に顕著であるが、民族楽器を取り入れたインド的な雰囲気が全編に漂っていて、なんともサイケなアルバムである。特に切ないキーボードが印象的なF「Tattva」はサイケ感抜群。しかし要所要所は@「Hey Dude」、D「Smart Dogs」、I「Grateful When You're Dead」などの骨太ロックチューンでしめているので、間延びもせずきっちり最後まで聞かせて本国で200万枚、日本ですら50万枚を売る大ヒットセールスとなる。日本で50万洋楽が売るって結構ありえない、というか。凄い。ジミヘンを髣髴とさせるようなギターリフやその芯の通った音作り等ギターワークが本当に素晴らしく、ルックス良し育ち良し声良し演奏良し、と天は二物も三物も与えたもうたわけです。ちなみにアルバムタイトルのKは、はじめはバンド名だったんだと。93年にミルズさんがインドの寺で影響を受けて曲作りを始めた際に、インド音楽や詞に啓蒙の深かった古代インド皇帝の名前にちなんでつけられたのがバンド名クーラシェイカーなのだと。んまぁとにかく聞きましょう、歴史的名盤の一枚です。


THE LA'S「The La's」
90年にこの作品のみを発表し解散してしまったリー・メイヴァース率いるラーズ。90年代ブリットポップ勢は間違いなくこのラーズの曲に影響を受けていて、それラーズの真似じゃん、て曲もちらほら。現在における人気UKバンドにも影響は与えており、リバティーンズのメロや、コーラルのフロントマン、ジェームス・スケリーのボーカルスタイルはこのラーズあってのものだと言って良いだろう。たった一作品でここまで評価を受け伝説化してしまった点において、ラーズを知らなくとも、いかにこの作品が素晴らしいものであるかを想像するのは難くはないはずだ。リー・メイヴァースの紡ぎだすメロディと時に渋く時に爽やかな声にはミュージシャンとしての才覚が溢れている。また、非常に軽快でセンスあるリズム感覚をメンバー全員が持ち合わせている点も見逃せない。素晴らしいメロディにジャキジャキしてリズミカルな楽器隊、A「I Can't Sleep」、B「Timeless Melody」、D「There She Goes」、F「Feelin'」を筆頭にポップで良質な曲がズラリと並ぶ。特にラーズ最大の名曲との呼び声高いDのメロディには溜息が漏れる。また、とある場で、このDに登場してくるpulls my trainという部分は、対訳だと普通に「彼女が僕の電車を引く」と訳されているが、実は「裾を引く」という意で、これは彼女と別れた哀しみの歌ではなく、死んでしまった娘に想いを馳せる歌なのだ(裾を引く位背が低い)、という解釈があった。だとしたら!この曲は超絶ものだと思いませんか。でも確かにこの作品中、Dだけモロなラブソングというのも解せなかったからなー、そうなのかもしれないな。天才だな、リー・メイヴァースは。何やってんだろ今。


THE LIBERTINES「Up The Bracket」
一瞬でもってかれる最高の瞬間がいたるところに存在する作品。フロントマンであるギター&ボーカルのピーターとカールの友情と、誰もが自由に暮らせる理想郷を共に目指すという誓いから始まったこのバンド、なんともサイドストーリーから魅力的な輩たちで、酒と薬にまみれ売春宿に転がり込んだり空き家に不法滞在しながら互いを罵り合い認め合いながら日々乗り越えてきた、のだと。とにかくフロント二人の時に甘く、時に感情剥き出しな歌いっぷりが凄まじく、我先にと競い合うように、また支え合うようにメインボーカルを交互に歌う様は見ていて聴いていて心躍る。弾けてないじゃん!なヘロヘロギターや荒削りすぎるそのサウンドも、うまいとかヘタとかそういうものを越えた部分でのロックンロールを鳴り響かせているので◎。あまりにもリアルで赤裸々に精神面や生活面を吐き出した歌詞はギリギリの部分で成り立っており、デビューシングルL「What A Waster」は早速その内容から放送禁止。とまぁ魅力を順に挙げているが、オレがリバティーンズを大好きな一番の理由は、そのメロディの素晴らしさである。イギリス特有のシニカルで流れるようなメロディがどの曲にも満載であり、@「Vertigo」のサビ後、A「Death On Stairs」、C「Time For Heroes」のAメロ、F表題曲「Up The Bracket」の全編、B「Horrorshow」、H「The Boy Looked At Johnny」、K「I Get Along」のサビ。・・・うーん、ちょっと手放しで誉めすぎたかな。
THE LIBERTINES「The Libertines」
ここまで前作と違う作品になってしまうとは。はっきり言って前作のような自信と勢いに満ち溢れたリバティーンズはここにはない。あるのは、不安、失望、切なさ、そしてすがりつく希望。とんでもなく悪い録音状況。それはドラッグ問題から発生したピーターとカールの衝突によりバンド内状態が芳しくないからであり、バンドを抜けていたピーターがわずか二週間だけ戻ってきたその一瞬を使って一気に録音したという作品であるからだ。とにかく音が悪くそして未完成もいいところな楽曲群、メロディも定かではない節もある。リバティーンズという「バンド」自体を愛しているわけではない人が、この作品だけ聞いたら「なんじゃこりゃ」となるのは間違いない。しかし、このゴミ作品を名作たらしめる理由はずばり「リアル」さである。状況に苦悶するピーター、カール両氏の感情がもろに吐露されている。それは皮肉なことに本当に素晴らしい哀愁とロマンチズム溢れるメロディと互いを愛し卑下する歌詞を作り出してしまった。@「Can't Stand Me Now」での、「おまえは俺を許してくれない」を交互に歌う様に、ロックのリアルさを感じない奴は死にたまえ。俺をわかってくれない、許してくれと歌うピーターと、俺はおまえを許していると歌うカール。歌詞で泣ける。そこにあるのは間違いなくリアルさであり真のロックンロールでありパンクである。そしてオレは、「手をつなごうよ青春だぜオイ!オイ!オイ!」という奴らが自分たちのことを「パンク」と呼ぶのが余計に許せなくなるのである。


LONGWAVE「The Strangest Things」
ストロークスとのツアーでのすばらしいライブにより一気にその名を高めたロングウェーヴです。出音の一音を聞けばそれでもう実力の高さをうかがい知ることができる。ここまでイギリスの音を鳴らすことのできるアメリカバンドも珍しい。本人達も望んでいた、空間の魔術師デイヴ・フリッドマンによるプロデュースを受けた堂々のデビュー作。明らかにマイブラ的な非常に綺麗で優雅な音を鳴らす@「Wake Me When It's Over」のようなギターがやはり注目どころ。かといえばスピリチュアライズドあたりがやってきそうな壮大な浮遊感的D「Meet Me At The Bottom」みたいな曲もある。ルート音を下げていくベースに乗るギターの泣かせ具合が素晴らしい。キャッチーな曲よりも自分達の好きなことをやってる印象の曲の方がはるかに出来が良く、@、C「I Know It's Coming Someday」、D、F「Tidal Wave」、G「The Ghosts Around You」が好き。演奏もしっかりしてるし、ボーカルも中低音に重みを持つ良ボーカル。ライブアクトもとても良かったので、非常に優等生的な作品です。ゆえにもうひと個性ほしいところ。凄く贅沢でハードル高い悩みなんだけど、これだったらマイブラ、レディオヘッド、スピリチュアライズド聞くなぁ、って感じ。だからもうひと個性!それで抜きんでてほしい。できると思うから。