今日はホーリー14日
「Happy Holly !!」 一年に一度っきりのホーリー。その存在すらオレは知らなかったのだけれど、ちょうどその日に旅をしていたのは必然だったんじゃないかな。それくらい楽しい日だった。 ホーリーとはヒンズー教における国祭だ。この日ばかりは上下関係もカースト制も関係ない。誰彼構わずお互いに色のついた粉や水をぶつけ合い、国中が歓声をあげる。以前デリーで見たカラフルな粉の山はこのホーリーが近いためであったのだ。日常から開放され、すべての罪は許される。無礼講なのだ。なんて狂っているんだ。ヒンズーの聖地バラナシでは、その盛り上がりからか、いつにも増して薬をキメている人間が多いからか、殺人すら起こるという。しかし罪が許される日、そしてガンジスに死体を流せば罪も流れてくれる。なんて狂っているんだ。 仏教思想で有名なネパールも実は、国教はヒンズー教だ。当然、今日はホーリーデイ。オレが泊まっていた周辺は外国人旅行者が多いのでそこまでではなかったのだが、バスでトレッキング地に向かう時はお祭り騒ぎであった。バスも調子にのった若者や子供たちに、襲撃される始末。なんて素敵な祭りなんだ。 トレッキング初日 そんなホーリーだが、今日はトレッキング初日。「せっかくポカラにいるんだから山に行かないともったいないよ!」とラムさんが盛んに薦めるので、そのラムさんを引き連れてオレとトムさんは3日間のトレッキングに出ることにしたのだ。バスの車掌に無理言って天井の荷台に乗せてもらい、ネパールの田園風景を眺めながら風を受ける。この風はオレのものだ。 ↑バスの上は格別だ。 パパイヤ、そしてホーリー 山を登り始めて気づく。トレッキングというのは非常に魅力的に聞こえるけど、実際登っている時はかなりキツいんだよな。タイのチェンマイでも、いい思い出ばかり残ってるけど実際はヒーヒー言っていたんだった。今日は憎らしいくらい天気も良くて汗も水を浴びたかのように溢れてくる。 しばらくすると尾根上に沿った村が現れる。休憩していると、一軒のゲストハウスのパパイヤの木が目に入る。「ラムさん、あれ食べられないのかな?」と聞くと、「中で頼んで食べちゃおう」とのこと。そこにいた同じ年くらいの女の子が屋根にうまいこと上り実を落としてくれる。おばちゃんがそれをキャッチしてパパイヤを綺麗に剥いていく。すすめられるままにひとつ口に放り込んでみる。それはそれは熟していて旨いパパイヤだった!・・・なんてことは実際なく、ゴリゴリに硬くてまずい…。「まだちょっと早かったかな」皆で顔を見合わせて苦笑した。 ↑そして何かが始まる…。 村の子供たちがたくさん寄ってきて、ちょっとしたパパイヤパーティーになる。そして忘れてはいけないのが今日はホーリーだということ。後ろからさっきのおばちゃんがオレに真っ赤な粉を浴びせた瞬間、その村でのホーリーは始まった。もう粉と水のぶつけあい合戦。ラムさん曰く「どさくさに紛れて女の子も襲っちゃえるよ!」。なんてすばらしい祭なんだ。とにかく無礼講で道を行く人を襲いまくるオレらと子供たち。道で隠れていて通る人を襲う、家の中に入って人を襲う、山賊の気持ちがなんとなくわかるような高揚感、凄く楽しい。「お風呂入ったばかりだから勘弁して!」と叫ぶ女の子を粉まみれにした時は楽しさと共に少し心も痛んだけれども。子供たちは本当によくはしゃぐ。「ハッピーホーリー!」「ハッピーホーリー!」。言葉はほとんど通じないけど、何か通じ合えるものがある。 「もう今日はここに泊まっちゃおうよ」というラムさんの提案で、そのままゲストハウスに泊まることに。パスポートナンバーをノートに書き入れる時、オレたちの前に泊まった旅行者が数ヶ月も前に来たっきりだったのを見た時に少しうれしくなった。そういうところを歩いているんだな。 風呂などないわけだが、全身粉みれでカラフルなひどいピエロのようなので、近くのベグナス湖に行水をしに行く。湖で水浴びなんて、壮大で素敵だけど、実際はアップダウンの激しい山をゼイゼイ言いながら、足をヒルに吸われまくりながらのやっとのことでの行水だった。 ネパールの国民食であるダルバートを食べ、一息ついて夜空を見上げると満天の星空。オレとトムさんは空が綺麗だよ!と言うが、ラムさんはじめとした皆は要領を得ない感じだ。空が綺麗?いつもと同じ空じゃないか、と。当然のように満天の星が見える空、その程度ではしゃぐことのできるオレたちは不幸なのかもしれないな。 オレはもう一度だけ空を見上げて部屋のドアを閉めた。 |