トレッキング2日目15日

「前の国王は本当にすばらしい人だった。だけど今の国王は酷いね。昔は凄く平和な国だったけど、今はとてもそういう状況ではないね」

ラムさんは昨日の夜そう言って溜息をついていた。現在、ネパールの治安状況はかなり悪い。前国王が死んだ後に、王宮内における銃乱射事件でビレンドラ王妃をはじめとする王位継承権を持つ王族が全員が逝去。前国王の弟であるギャネンドラが国王として即位した。あまりにも出来すぎたこの事件により全権を掌握したギャネンドラ国王の絶対王政ぶりが更に目にあまるものであり、それに反発する反王制集団マオイストの武力抗争が活発化しているのだ。

そしてオレが旅をしているこの時期は、マオイストによる経済封鎖が行われるという噂であった。ちょうどオレがこのトレッキングを楽しんでいる頃、全ての幹線道路が封鎖され、バスも運行できず、オレはこの後カトマンズに行くどころか山の麓からポカラにも帰れないかもしれないという状況になっていたのだ。

しかしそんなことはつゆ知らず、朝のヒマラヤを眺めチャパティーというパンのようなものを食べながらオレは自然美に浸っていた。「今日は僕の奥さんの実家に行ってみないか?かなり山登るけどね」とラムさんは言う。このベグナス湖を囲む山のひとつに彼の奥さんが昔暮らしていた村があるという。そうと決まれば早速出発だ。

↑すがすがしい朝。

↑チャパティーは旨いんです。



村までの道のり

道はひどく険しい。今日は涼しいのでまだマシなのかもしれないが、とにかく山の傾斜が激しい。普段あまり運動をしない自分を呪いたくなる。しかしそんな時はいつも富士山登山を思い出すんだ。あれに比べれば、あれに比べれば・・・でもやっぱりきつい。

しかし風景はただただ、圧巻だ。昔、日本にもあったのかもしれないと感じる風景。棚田や段々畑が広がり、人はその中で暮らしている。農作業をする人々、道を歩く水牛。オレはずっとこういう風景を見たいと思っていた。でもそれはずっとそのイメージが頭の中にあったわけではなく、今この風景を見て初めて、あぁオレはずっとこの風景が見たかったんだなというのを実感しているのだ。不思議な感覚だが、美しくすばらしいものが目の前に広がっているのだ。

時々すれ違う山の民と挨拶を交わしながら足を進める。一様に照れながらも親しげに微笑みかけてくれる地元の人たち、みんな何でもないかのようにひょいひょいと登ってゆく。どうなってるんだ。

↑ネパールは最高だ。