村
「あれが今日泊まる村だよ」 ラムさんが指差す先には村というよりも集落と呼んだ方がしっくりくるくらい小さな村。山の傾斜に点在する家は、土と泥だけで作られた壁にわらぶきの屋根。電気も水道も通っていない原始的な生活をする人々が暮らしているんだ。 旅行者というものに慣れていない村人たちもオレたちに興味津々だ。子供たちは無垢でかわいい。「やだ!絶対ここがいいの!」と、オレのひざの上に座って片時も離れようとしない女の子にいたってはこのままさらってバックパックに詰めて日本に持って帰りたいほどだ。というのは冗談だけど、本当にみんな心が豊かだ。途上国において、観光者が来る土地にいる子供は、どんなに可愛くてもそれなりに金をせびってくるので時として哀しい気分になることがある。それは子供が悪いのではなく、オレたち先進国の旅行者が作り上げてしまった空気であり、関係だ。それは寂しいことだけれどしょうがないことだと思う。でもこういった旅行者が訪れないような場所の人たちはそういった付き合い方をしない、というか知らない。「何もないけど自然だけはたくさんあるし、ゆっくりしてきなよ」。心は安らぐ。 歩いて村を周ってみる、といっても小さな村なのですぐ周れてしまう。人々ははじめちょっと驚いて、その後すぐ優しい笑顔になって挨拶をしてくれる。村唯一の商店に行っても、注目の的だ。商店といっても畳二畳分くらいしかない小さな店だ。そのくせ何故か少しおしゃれな主人が、「日本人か!そうかそうか」とチャイを入れてくれ、ゲーム台を出してきてくれたりする。このゲーム、スリランカでやったことあるぞ。でも実際はボロボロにへたくそなオレはこてんぱんにやられるのであった。 ↑ここで全てが買える・・・のか? ↑これは器を作っているところ。 夜、ラム奥さんの家族と囲炉裏を囲んでダルバートを食べた後、「踊ろうよ!」って近所から集まってきた村の子供たちがせっついてくる。子供たちはみんな踊りが上手で舌をまく。男の子と女の子で違う踊り方になっているらしくて、男の子の軽快で元気な踊りに対して、女の子は流れるようにくるくると踊る。みんなで歌いながら、踊り好きは自由に踊る。凄く可愛くて見ていて楽しい。オレも「わかんないけど適当に踊るわ!」ってへんてこな踊りを披露して爆笑を買ったけど楽しいから全然いいよな。 ↑真ん中の子の踊りがめちゃくちゃうまいんです。 月の灯りをスポットライトにして踊る子供たちは本当にタフで、疲れを知らない。小さい子もオレとそう年の変わらないような青年も、夜通しずっと笑って踊り続けていた。タフすぎる・・・トムさんは途中でダウンして寝てしまった。オレもいくらかはがんばっていたけど敵わないや。「そろそろ寝るよ」と、硬いベッドに寝そべると、普通に家の子供が同じ毛布の中に滑り込んでくる。こうやって寄り添って生きているんだな・・・。 この村には、文明社会に生きるオレたちにとって必要な水道も電気もなかったけれど、文明社会に生きるオレたちにとってさらに必要な「通い合わせる心」は十分すぎるほどに存在していた。 |