カシュガルからトルファンへ19日
空港へ行くため、起きて荷造りをする。朝8時だというのに外は真っ暗だからどうも調子が狂う。やさしいお母さんドライバーのタクシーに揺られ、振動でうとうとしかけた頃に到着してしまう。当然ではあるのだが、ひとつの町を去る瞬間はどうにも感慨深さがつきまとうものであり、今回も例外ではない。加えてこの旅の目的はここカシュガルだったのだから、短い滞在時間とはいえやはり少し寂しいものはある。 当然のごとく遅れてやってきた飛行機に乗り、一度ウルムチへ。到着後即時、南バスターミナルに行き、長距離バスにてこの旅第三の街トルファンへと向かう。インド国境越えで乗ったバスのように座席がはずれている・・・なんてことはなく、バスは座席、空調ともに快適だ。やかましいウイグルポップを除けば、であるが。なぜイスラム地域のバスは例外なく現地ポップスを大音量でかけるのだろう。 ↑風車が乾いた風を受けて回る アイちゃん いくつかの山を越え、乾いた荒野を走りぬけ、拓けた平原を進むこと約3時間半、バスはトルファンに到着した。年間降水量20mm、最高気温46度、最低気温-28度、恐ろしい土地だ。とはいえ乾いた荒野の中にも町としての機能はひととおり整っている。この土地は一方で観光資源が豊富で、年間の観光訪問客の数も他の町に比べたらはるかに多いからだ。 ターミナルで降りると、早速日本語の堪能な兄ちゃんが話しかけてくる。いまだ日本人に一人も会っていなかったので、日本語がとても新鮮だ。世界中のいたるところに、バックパッカーの間でのみ有名な人物というものがいるわけだが、トルファンを一人旅したことのある人にとって彼、旅行ガイドのアイちゃんは恐らくその類の人物だ。面倒見がよく日本語が堪能で人懐っこいので打ちとけやすいのだろう。僕も例に洩れずそのままターミナル横にある安宿、交通会館に荷を解くことにした。立地は最高で値段も安い。渋る理由はどこにもなかった。 黄昏遺跡 アイちゃんと簡単な交渉を済ませて今日明日でまわるコースを決める。夜の砂漠を盛んにすすめてくるが、ひとりで行くのも何だか味気ない。「わかったわかったよ〜。じゃあ女の子つかまえとくから、そしたら砂漠行こうね〜」というアイちゃん。旅ももう佳境、ひとりだろうがふたりだろうが夜の砂漠も悪くないなと思い始めていた。 車でトルファン周辺の見所をさっそく周る。まずはカレーズ。カレーズとは人工の水路のことで、灼熱の土地に住むここの人々の知恵は、地下水路オアシスの技術を編み出した。歩くとひんやりとした空気が心地よい。だが見どころという見どころがあるわけではないので、適当に切り上げて今日のメイン交河故城に行くことにする。 交河故城―、ただただ広い。日干し煉瓦での遺跡群が広がっているのだが、絵に描いたような栄枯盛衰である。あまりにも同じような風景が続くため何だか疲れてしまう。漢民族御一行様がたくさんいたというのもある。全員例外なく一眼レフを構える漢民族御一行様。本当に例外ないものだから彼らの統一性の高さに笑ってしまう。しかし彼らのフレーム内に入ってしまった僕は散々なじられ、怒鳴られた。何もそこまで怒りを露わにすることはないだろう・・・。僕は一眼レフも漢民族御一行様も嫌になってしまったのだった。 ↑とにかく広い遺跡だった ↑この景色が延々と続く 夕飯時 「乗せてくれない?」という学生ガイドを乗っけて町へと戻る途中、スイカを買うために車を停めるドライバー。この土地は本当にスイカが必需品なのだ。文字通り山になっているスイカの中から真剣にいいものを探している彼を待ちながら、通りを眺め背伸びをしてみる。気温が下がりだし、ちょうどいい風が僕を包む。夕刻の帰りどきなのだろう。学校帰りの学生、仕事帰りの大人たちの往来が目立つ。夕焼けの中家路を急ぐ彼らを見ていると、少しだけ僕も日本の家に帰りたくなった。 ↑スイカ山 宿に到着すると初日本人、元気の良い関西人学生コンビだ。アイちゃん曰く、例年ならば連日のように日本人旅行者は訪れるらしいのだが、今年はテロの影響かここ最近では彼らと僕くらいしか日本人が来なかったらしい。「テロ・・・?そっか、そんなことあったよね」そこまで言われて僕は久しぶりにテロのことを思い出した。それくらいここウイグルは平和だったのだ。もちろん気を抜かないのはいいことだ、だが日本の報道機関の過熱ぶり、そして限定性は時として危険だと思う。だから僕はテレビをあまり信じないようにしている。自分というフィルターをはずさないようにしていたいのだ。 「もっと早く会えば一緒に遊べたのにな」「良い旅を!」今夜のバスで敦煌に向かう彼らに別れを告げ、僕はアイちゃんと夕飯を屋台で食べる。そこにふらりとあらわれたアイちゃんの友達だという、通称"社長"がかなりユーモラスで話していて面白い人物だった。なにしろ、横浜近辺の出身であることを告げると、「横浜といえばニッサン本社だな」と日本人ですら知らないかもしれないことを無駄に知っているのだ。思わず大笑いして握手をしてしまう。 こんな夜は酒もすすむし飯もうまい。笑いと楽しい話は、なによりも効果的なスパイスとなり僕の身体に染み渡る。 ↑豆スープの麺料理。トルファンでは人に恵まれました |