スイカと社長の優しい甘み22日
三食連続になったラグメンを腹に入れ今度こそ本当の食い納めだ。これまた見納めなトルファンの町を散歩でもしようと思っていると、社長が突き出た腹をさすりながら、「スイカ食うぞ」と誘ってくれる。しかも買うのがもったいないとのことで、バイクに二人乗りをして彼の自宅にてまったりとスイカを貪り食う。よく冷えて歯ざわりのいいスイカは本当に美味しくて、乾いた身体に染み渡る。 日が傾き暗くなり出している中、程よく町を確認するように歩き夕飯をおなじみのメンバーで食べると、いよいよ帰国の準備をしなければならない。これよりバスで3時間かけてウルムチへ向かい、そのまま国際線で日本に帰る。この気のいい連中ともお別れだ。 僕はなんと言おうか少し逡巡した後、「ありがとう、さようなら。あなたたちに会えて楽しかった」そう告げた。「また会おう」とは言わなかった。 社長は、僕の目をしばらく覗き込み、いつものように皮肉めいて口の端を上げると、「ま、気が向いたらまた来いよ」、そう言ってくれた。瞬間、言葉がよみがえる。彼は以前こう言っていた。『俺たちが『また来いよ』って言ったのに対して社交辞令でそれを言うのはまだわかるけど・・・』 僕はかなりグッときてしまった。「また会おうと言うな」と社長は言った。でも「俺たちから言った場合は別だけど」とも言った。彼は僕に「また会おう」と言わせてくれようとしているのだ。 でも、だからこそ言えなかった。再度ここを訪れる保証はどこにもないのだから。だが、社長のそのぶっきらぼうな優しさに触れた僕は、「さようなら」を意味しながらも、その字に別の意味を込めることのできる言葉で彼らに別れを告げた。 「再見」 さようなら、また会おう、と。 |