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カシュガル
東トルキスタンとも呼ばれるウイグル自治区は、古来より政治的にも経済的にも中国と密なつながりがあり、現在に至るまでその領土は独立と支配の繰り返しであった。中華人民共和国成立に際して中国の一部としてその支配下に入ったわけではあるが、政府による人権・文化の侵害、天然資源の剥奪などにより、現在も東トルキスタンイスラム分離独立運動が頻繁に起こっている。 タクラマカン砂漠の西、中国最西端に位置する町カシュガル。シルクロードの要衝として、多くの物資、そして文化を運ぶのに一役を担った町だ。ウイグルでもさらに西域の、このカシュガル周辺は独立運動がより盛んであり、北京五輪開催に合わせて大規模なテロが乱発したのも記憶に新しい。 そういった意味では危険が伴う町だ。しかし、カシュガルを訪れた旅人たちで悪い印象を抱く者はいない。むしろ良い記憶として記録を残す者の方が多い。僕がウイグル自治区を訪れようと決めた際、一番の目的として選んだのがカシュガルであり、当然今回の旅でも訪れることになる。 カーシーはいいところ 企業戦士の一端である僕には時間があまりないため、飛行機を利用することにする。本当はバスで時間をかけてゆっくり向かいたかったのだが仕方がない。働くことで得るものもあれば、難しくなるものもある。 タクシーのドライバーに「我去カーシー(カシュガルへ行くんだ)」と告げると、「それはいい!あそこは素晴らしい場所だから楽しんでくるといいよ」と言ってくれる。そんな言葉を受け約1時間半のフライトを終えるとそこはもうカシュガルだ。 空港からタクシーで数十分、荷をおろした宿は最近テロが起きた公安施設の横にある宿。しかしコストパフォーマンス、立地条件からみるとこれ以上の場所はないように思える。そもそも有事があった直後の場所というのは警備が厳重になっているため、むしろ安全なのではなかろうか。周辺の雰囲気からも不遜な空気は嗅ぎつけられないと判断してここに決めることにする。 人民東路を境に南側は漢民族のエリア。毛沢東の巨大な像が庶民憩いの広場を見渡している。こちらの景色はウルムチで見たものとそう大差ない。しかし北側はウイグルエリア。少し歩くともう違いがわかる。空気がひどく渇いているのだ。泥とレンガで積み上げられた風景が僕を迎え入れてくれる。そして住民の8割が西方民族であるため、まるで中国とは思えない様相を漂わせている。顔立ちの彫りが深く、立派な口髭をたくわえた人たち、イスラム帽をかぶった老人たち、屈託なくはしゃいでいる子供たち。中国の面影といえば漢字が見られることと貨幣くらいだ。かつて訪れたウズベキスタンやイエメンに通じる風景、やはりウイグルに来たのだからここまで来ないと、である。 ![]() ↑宿から旧市街を望む ![]() ↑町散策はとても楽しい マイスターストリート 北地域には、カシュガル名物でもある職人街と呼ばれる通りがある。そこで仕事ぶりを発揮する彼らはまさにマイスターと呼んで差支えない精巧な技術を持っている。手際は素早くそれでいて形の整った美しい木工用品、金物、銅細工、せいろ、帽子・・・。長年の蓄積と伝統を感じさせる技術と気概がこの地域からはにじみ出ているのだ。ふと色目にも食欲をそそる惣菜屋台が出ていたので、「あれと、これと・・」と指定をしてパックしてもらう。「これが一番うまい」 「本当?じゃ、それも入れて・・」と何だか少しだけ主婦気分だ。 ![]() ↑職人肌な作品たち ![]() ↑ロバ車も立派な交通・運輸手段だ 強風で砂塵が舞い上がっている町の中を駆け足で移動し、宿に戻る前に思い出したようにビールをしっかり買い込んで帰宿。ひといきついて先ほど買ったおかずセットを見てみると、これが何とすべてキノコ類。鶏肉に見えたものも白いキノコ、調味料がかかっていると思ったのもキノコの柄。食欲をそそる匂いもするが、危険な匂いも立ち昇らせていることは否めない。僕はスーパーマリオではないので、異国の屋台の生キノコはどう見ても毒キノコにしか見えない。しかし食欲には勝てない僕は、意を決してキノコ盛り合わせを腹に収めていくのであった。 ![]() ↑見た目はうまそうな惣菜たち |